天武天皇評伝(五) 頤で王子を殺す

中臣鎌足《なかとみのかまたり》がともに天下のことを図るべき人物と見こんだ本命は、あくまで中大兄《なかのおほえ》王子だった。それにも関わらずここで孝徳王を推戴したことには、いくつかの理由がある。それはまず第一には、孝徳王からの破格の礼遇があってこそ鎌足の今の地位があるということだった。恩は返さなけれ…